2017年高齢者虐待防止学会主催研修会<2017年7月16日>

高齢者虐待防止に資するため、高齢者虐待防止に関心のある専門職および行政担当者向けに、実践力向上を支援することを目的とした研修、「2017年 高齢者虐待防止学会主催研修会」を、松戸大会の翌日2017年7月16日(日)に開催しました。60名をこえる専門職にご参加いただきました。学会理事が講師、グループワークのファシリテータとして参加。活気のある中で、学びの多い研修会となりました。

概要

項目内容
セミナー名2017年 高齢者虐待防止学会主催研修会
日時2017年7月16日(日)10:00~16:30
会場森のホール21 レセプションホール(千葉県松戸市千駄堀646-4)
テーマ1 高齢者虐待における法的課題と法律専門職との連携
2 共依存と介入拒否~事例を通して、多職種との連携を演習方式で学ぶ
対象高齢者虐待防止に関心のある専門職および行政担当者等
定員60名(先着順)*定員になり次第募集は終了いたします。
参加費会員3,000円、非会員4,000円 
お弁当(希望者のみ)1,000円
申し込み方法事前申し込み・事前振り込みが必要です。下記の「参加申込フォーム」にご入力いただくか、「FAX申込書」をダウンロードして事務センター宛にFAXでお申し込み下さい。後日、学会事務センターより参加証をお送りいたします。
備考*指定期日までに入金できない場合や申込内容に変更のある場合は、必ず学会事務センターにご連絡ください。ご連絡がなく入金が確認できない場合は、キャンセル扱いとなる場合がありますので、予めご了承ください。
*参加者の皆様には受講証明書を終了後、お渡しします。
お問合せ・申し込み学会事務センター・NPO法人シルバー総合研究所
〒338-0812 埼玉県さいたま市桜区神田313-1 B105 
電話 048-711-7144 
FAX 050-3737-4902
E-mail info-japea@silver-soken.com

プログラム

時間形式内容講師
10:00~10:10開会式とオリエンテーション
10:10~10:40講義「市区町村・地域包括支援センターへの期待~学会と朝日新聞との合同調査から」
目的:合同調査結果のデータを通して、今求められる市区町村・地域包括支援センターをめぐる支援課題の最新の動向を学ぶ
臼井キミカ
(人間環境大学)
10:40~11:10講義「高齢者虐待における法的課題と法律専門職との連携」
目的:リーガルアプローチについて理解し、連携の必要性を学ぶ
滝沢香
(東京法律事務所)
11:10~12:40演習

Q&A
「高齢者虐待における法的課題と法律専門職との連携」
目的:法的課題の事例及び法律専門職との連携を演習方法で学ぶ

★法律関係のQ&Aコーナー
 参加者から法律専門職への質問タイム
担当:池田直樹・滝沢香・田中勇・芳賀裕
山口光治
(淑徳大学)
岸恵美子
(東邦大学)
山本克司
(修文大学)
12:40~13:40休憩昼食・休憩(60分)
13:40~14:10講義「共依存の理解」
目的:共依存とそれをめぐる課題(介入拒否等)について理解する
松下年子
(横浜市立大学)
14:10~16:15

*休憩あり
演習

Q&A
「介入拒否の事例を学ぶ」
目的:介入拒否事例を通して、多職種との連携を演習方式で学ぶ
★看護・医療関係のQ&Aコーナー
担当:臼井キミカ・岸恵美子・松下年子・和田忠志
小長谷百絵
(上智大学)
吉岡幸子
(帝京科学大学)
16:15~16:30閉会式 
*終了後、参加証明書配布・事務連絡・アンケート記入等


ファシリテーター:池田 直樹、柴尾 慶次、田中 勇、塚田 典子、山田 祐子、和田 忠志、芳賀 裕

質問とコメント

セミナー参加者から寄せられた質問に、講師がコメントしたものを掲載しています。

※質問をクリックするとコメントが表示されます。

【質問】 介護放棄というわけではないものの、適切に介護できていない場合、ネグレクトであるという判断の根拠をどのように考えるか。
例)
①自宅で転倒をくり返す高齢者に対して、同居の家族が適切な対応(介護保険のサービスの利用等)を取らない場合。
②徘徊を繰り返す高齢者に対して、同居の家族が適切な対応(介護保険サービスの利用等)を取らない場合

【コメント】
東京都高齢者虐待対応マニュアルでは、以下のように「介護・世話の 放棄・放任」を定義しています。
ご質問の例では、家族が世話をしないなどにより適切な対応ができず、高齢者が生活環境や身体、精神的状態を悪化させる状態に陥っております。家族ができない場合に、高齢者本人が必要とする介護・医療サービスを、相応の理由なく制限したり使わせないなどは「介護・世話の 放棄・放任」にあたります。

「介護・世話の放棄・放任」:
「必要な介護サービスの利用を妨げる、世話をしない等により、高齢者の生活環境や身体・ 精神的状態を悪化させること
【具体的な例】
・入浴しておらず異臭がする、髪が伸び放題だったり、皮膚が汚れている ・水分や食事を十分に与えられていないことで、空腹状態が長時間にわたって続いたり、 脱水症状や栄養失調の状態にある
・室内にごみを放置するなど、劣悪な住環境の中で生活させる
・高齢者本人が必要とする介護・医療サービスを、相応の理由なく制限したり使わせない/等
・同居人による身体的虐待、心理的虐待等と同様の行為を放置すること」

東京都高齢者虐待対応マニュアル,p4
(回答者 岸恵美子)

【質問】 コアメンバー会議の実施状況について知りたい。虐待初動時の支援方針を会議体で実施している市区町村はどの程度されているのかがわからないです。そのような情報があればご教示いただければと思います。

【コメント】
虐待の有無と緊急性の判断は、市町村の責任に基づいて開催されるコアメンバー会議で行い、当面の対応方針を決定していくとしています(日本社会福祉士会 2011)。構成員は、市町村担当部署の管理職および担当職員、地域包括支援センター職員、さらに必要に応じて、庁内関係部署の職員や専門的な助言者等の出席を要請することが考えられます。

この過程は、初動期に必ず経なければならないものといえます。したがって、統計的に集計された情報は持ち得ていませんが、虐待の通報・相談、届出があった場合には、虐待に該当しない場合も含めてすべての場合に、必ず判断がなされ、当面の対応方針が決定されていると考えられます。

大切なことは、権限行使を含む市町村の意思決定の場ですので、その責にある管理職が加わり、必要なメンバーで素早く検討し、当面の対応方針を立て、高齢者の安全を確保していくことが重要となります。

文献
社団法人日本社会福祉士会編(2011)『市町村・地域包括支援センター・都道府県のための養護者による高齢者虐待対応の手引き』中央法規出版
(回答者 山口光治)

【質問】
① 高齢者虐待における公務員の告発義務について
② 病院で死亡した高齢者の死亡原因が虐待によるものである可能性がある場合の通報義務の有無及びその後の対応について(市町村はどのような対応をとるべきか)

【コメント】
① 刑事訴訟法239条2項に「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。」と公務員の告発義務について規定している。

高齢者虐待は、暴行・傷害・脅迫・保護責任者遺棄等の刑罰の対象になっている行為に該当する場合があり、高齢者虐待対応を行うべき市町村の部署の業務に従事する公務員は、「その職務を行うことにより」に該当するので、同条の義務を負うと解される。

同条の義務については、刑事司法の適正な運用を図るために各行政機関に対して協力義務を課したもので、あわせて告発に裏付けられた行政運営を行うことにより、その機能が効果的に発揮されることを目的としている。通説は義務規定と解し、その違反は、国家公務員法・地方公務員法の懲戒事由にあたるとしている。もっとも、義務規定と解したとしても、公務員の職権による裁量を許さないものではないと解されている。すなわち、その案件を告発することによって今後の行政運営に重大な支障が生ずるとみられる場合にまで告発の励行を要求しているものとは考えられていない。

したがって、法的解釈としては告発義務があるということになるが、高齢者虐待対応は公務員が単独で対応するのではなく関連部署の責任において対応すべきことからすれば、関連部署の組織的な討議に付したうえで、告発についての判断をすることが必要であろう。
告発は、刑事手続に付すべき事実についての捜査の端緒であることからすれば、警察・検察は、告発がない場合でも刑事罰に該当する事実がある場合には捜査に着手する場合もある。

高齢者虐待対応においては警察との連携も想定されているところであるので、告発という経過を経なくても警察との連携によって、警察が捜査に着手する場合もあるので、告発すべき事案については速やかな警察との連携による対応が必要ではないか。

② 高齢者虐待防止法の義務は何人もとなっており、この場合も虐待としての通報義務がないとは言えない。

しかし、養護者による虐待の場合、高齢者の保護や虐待状態の解消等の対応はできなくなっており、養護者支援も行う対象とはならないかもしれない。もし傷害致死や殺人の可能性があれば、警察が対応することが適切である。

養介護施設従事者による場合には、警察による対応も不可欠であるが、当該施設には他の高齢者も入居していることを踏まえると、市町村としては、速やかに介護保険法や老人福祉法による権限行使を適切に行うことが必要となる。
いずれの場合も、警察との連携も踏まえた対応と方針の協議が必要である。

(回答者 滝沢香)