質問とコメント

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2017.7.16開催 「2017年 高齢者虐待防止学会主催研修会」

【質問】 介護放棄というわけではないものの、適切に介護できていない場合、ネグレクトであるという判断の根拠をどのように考えるか

例)
①自宅で転倒をくり返す高齢者に対して、同居の家族が適切な対応(介護保険のサービスの利用等)を取らない場合。
②徘徊を繰り返す高齢者に対して、同居の家族が適切な対応(介護保険サービスの利用等)を取らない場合

【コメント】
東京都高齢者虐待対応マニュアルでは、以下のように「介護・世話の 放棄・放任」を定義しています。
ご質問の例では、家族が世話をしないなどにより適切な対応ができず、高齢者が生活環境や身体、精神的状態を悪化させる状態に陥っております。家族ができない場合に、高齢者本人が必要とする介護・医療サービスを、相応の理由なく制限したり使わせないなどは「介護・世話の 放棄・放任」にあたります。

「介護・世話の放棄・放任」:
「必要な介護サービスの利用を妨げる、世話をしない等により、高齢者の生活環境や身体・ 精神的状態を悪化させること
【具体的な例】
・入浴しておらず異臭がする、髪が伸び放題だったり、皮膚が汚れている ・水分や食事を十分に与えられていないことで、空腹状態が長時間にわたって続いたり、 脱水症状や栄養失調の状態にある
・室内にごみを放置するなど、劣悪な住環境の中で生活させる
・高齢者本人が必要とする介護・医療サービスを、相応の理由なく制限したり使わせない/等
・同居人による身体的虐待、心理的虐待等と同様の行為を放置すること」

東京都高齢者虐待対応マニュアル,p4
(回答者 岸恵美子)

【質問】 コアメンバー会議の実施状況について知りたい。

虐待初動時の支援方針を会議体で実施している市区町村はどの程度されているのかがわからないです。そのような情報があればご教示いただければと思います。

【コメント】
虐待の有無と緊急性の判断は、市町村の責任に基づいて開催されるコアメンバー会議で行い、当面の対応方針を決定していくとしています(日本社会福祉士会 2011)。構成員は、市町村担当部署の管理職および担当職員、地域包括支援センター職員、さらに必要に応じて、庁内関係部署の職員や専門的な助言者等の出席を要請することが考えられます。

この過程は、初動期に必ず経なければならないものといえます。したがって、統計的に集計された情報は持ち得ていませんが、虐待の通報・相談、届出があった場合には、虐待に該当しない場合も含めてすべての場合に、必ず判断がなされ、当面の対応方針が決定されていると考えられます。

大切なことは、権限行使を含む市町村の意思決定の場ですので、その責にある管理職が加わり、必要なメンバーで素早く検討し、当面の対応方針を立て、高齢者の安全を確保していくことが重要となります。

文献
社団法人日本社会福祉士会編(2011)『市町村・地域包括支援センター・都道府県のための養護者による高齢者虐待対応の手引き』中央法規出版
(回答者 山口光治)

【質問】
① 高齢者虐待における公務員の告発義務について
② 病院で死亡した高齢者の死亡原因が虐待によるものである可能性がある場合の通報義務の有無及びその後の対応について(市町村はどのような対応をとるべきか)

【コメント】
① 刑事訴訟法239条2項に「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。」と公務員の告発義務について規定している。

 高齢者虐待は、暴行・傷害・脅迫・保護責任者遺棄等の刑罰の対象になっている行為に該当する場合があり、高齢者虐待対応を行うべき市町村の部署の業務に従事する公務員は、「その職務を行うことにより」に該当するので、同条の義務を負うと解される。

 同条の義務については、刑事司法の適正な運用を図るために各行政機関に対して協力義務を課したもので、あわせて告発に裏付けられた行政運営を行うことにより、その機能が効果的に発揮されることを目的としている。通説は義務規定と解し、その違反は、国家公務員法・地方公務員法の懲戒事由にあたるとしている。もっとも、義務規定と解したとしても、公務員の職権による裁量を許さないものではないと解されている。すなわち、その案件を告発することによって今後の行政運営に重大な支障が生ずるとみられる場合にまで告発の励行を要求しているものとは考えられていない。

したがって、法的解釈としては告発義務があるということになるが、高齢者虐待対応は公務員が単独で対応するのではなく関連部署の責任において対応すべきことからすれば、関連部署の組織的な討議に付したうえで、告発についての判断をすることが必要であろう。
告発は、刑事手続に付すべき事実についての捜査の端緒であることからすれば、警察・検察は、告発がない場合でも刑事罰に該当する事実がある場合には捜査に着手する場合もある。

高齢者虐待対応においては警察との連携も想定されているところであるので、告発という経過を経なくても警察との連携によって、警察が捜査に着手する場合もあるので、告発すべき事案については速やかな警察との連携による対応が必要ではないか。

② 高齢者虐待防止法の義務は何人もとなっており、この場合も虐待としての通報義務がないとは言えない。

 しかし、養護者による虐待の場合、高齢者の保護や虐待状態の解消等の対応はできなくなっており、養護者支援も行う対象とはならないかもしれない。もし傷害致死や殺人の可能性があれば、警察が対応することが適切である。

 養介護施設従事者による場合には、警察による対応も不可欠であるが、当該施設には他の高齢者も入居していることを踏まえると、市町村としては、速やかに介護保険法や老人福祉法による権限行使を適切に行うことが必要となる。
 いずれの場合も、警察との連携も踏まえた対応と方針の協議が必要である。

(回答者 滝沢香)