ニューズレターNo.21 マンスフィールド財団 Vanessa F Cooksey氏との会談報告

2016年9月26日(月)に、マンスフィールド財団を通して日本の高齢者虐待に関してWells Fargo Advisorsの投資法会社の社会問題担当者から会見の申し入れがあり、学会の理事長で弁護士でもある池田先生と滝沢弁護士が日弁連会館5階東京弁護士会館会議室にて会談を行いました。その会談内容をご報告します。


写真(下)左から、滝沢理事、Cooksey氏、池田理事長、写真(上)筆者

2016年9月26日(月)に、マンスフィールド財団を通して日本高齢者虐待防止学会に高齢者虐待に関してWells Fargo Advisorsの投資法会社の社会問題担当者(Vanessa F Cooksey氏)から会見の申し入れがあり、弁護士でもある池田理事長と滝沢理事が日弁連会館5階東京弁護士会館会議室にて会談を行った。

Cooksey氏の主な仕事は、地域のボランティア活動の計画である。今までの活動の中心は子どもであったが今後高齢者向けの活動を計画しているために日本の高齢者問題への取り組みを視察に来られた。

当学会の塚田理事(日本大学)の海外論文を通して日本の高齢者虐待防止の取り組みに興味を持ったということであった。
以下にその会談の模様を報告する。

まず池田理事長より、①日本の高齢者虐待防止法について、②日本の高齢者虐待防止法の特徴と諸外国との比較、③家庭内あるいは施設の通報の義務について、④高齢者虐待防止法の理念、⑤アメリカの高齢者法と日本の高齢者虐待防止法との違い、⑥当学会の成り立ちと活動について説明された。

Ⅰ.池田理事長からの説明

1.日本の高齢者虐待防止法について
日本の高齢者虐待防止法は、養護者支援と虐待防止の2つを両輪として制度的に位置付けられています。養護者支援とは、家族がお年寄りの介護の負担からお年寄りを虐待する、それを防止するため家族自体を支援することです。虐待への制度としての対応は、まずお年寄りを救出します。そして予防的には虐待にならないように家族を支援します。そして、最終的には、虐待まで至ったお年寄りを再度家族とともに同居できるように、再統合します。それを目指しています。

2.日本の高齢者虐待防止法の特徴と諸外国との比較
諸外国の高齢者虐待防止と異なる点は、日本では虐待をした人の刑事処罰は特に重きは置いていません。もちろん、その行為が犯罪に該当する場合は処罰されます。しかし犯罪に該当しなければ虐待者のペナルティーということで、それを生み出さない社会をつくることを目的としています。家族はお年寄りのお世話の社会資源なので、家族の介護力の回復を目指すほうが、お年寄りにとっても良いです。何かの事情で家族関係が崩れて虐待になったとしても、いったんお年寄りを救出して、その家族関係が修復し、もう一度家族の元に戻ることが望ましいという理念を持っています。
制度は大きくはお年寄りのいる場所で分けます。1つは自宅にいる場合の虐待、もう一つは、老人ホーム等の施設に入っているときの虐待です。虐待の種類は、アメリカの制度を参考にしており、身体的虐待、心理的虐待、性的虐待と財産的搾取です。。アメリカと違うのは、セルフ・ネグレクトが日本の制度では含まれていないことです。
セルフ・ネグレクトを虐待に入れなかった理由は、制度として、被害者としてのお年寄り本人と虐待行為をする他者という両者の関係の整理がつかなかったためです。しかし本学会では、虐待のなかに取り込んで対応すべきだと考えています。なぜならセルフ・ネグレクトは、お年寄り自身が自分を大事にせずに、自分を痛めつける、あるいは自分の不健康な状態を改善しようとしない状態です。お年寄り自身加害者でありながら被害者で健康や尊厳を損ねています。そのような状態を放っておけないからです。
3.家庭内あるいは施設の通報の義務について
家庭あるいは施設などオープンでない場の虐待を早く発見し、そのお年寄りを救出するためには、早い段階での内部通報が不可欠だと考えています。行政に通報する義務です。通報の義務はわれわれがこの制度をつくるときに学会からも申し入れをしたことです。
家庭内の虐待が通報された場合、行政等が調査をして、虐待でなければ終了し、虐待であれば対応します。その判断は通報を受けた側がするので、通報者自身に責任は問いません。間違っても早く通報すること。それが一般の市民に対する通報義務です。
施設に於いては、明らかに虐待ではないのに虐待であるかのように通報するというのは、その施設にとっては間違った情報を行政に提供することになります。虐待ではないのに虐待と信じて通報した場合は、通報者はその施設から不利益を受けることがあります。
Question:不利益とは解雇や処分のことでしょうか
そうです。施設運営側は、虐待行為を施設内部で調整前に外部に通報してほしくないと考えています。
虐待防止の立場からすると、家庭内と同じように、虐待の疑いがあれば通報してほしい、判断が誤っていても通報してほしいのです。しかし誤った通報の責任を問われると、通報しにくい状況が生じます。その制度を廃止してほしいと考えています。
もし虐待と判定された場合には、行政が権限として直接調査し、虐待状況からお年寄りを救出して、別の施設に移る制度になっています。行政調査に妨害があれば罰金だけですがそれは犯罪になります。
4. 防止法の理念
理念としてお年寄りが自分らしくできることを実現したいと考えています。一番の課題は、医療機関での回復の見込みがないお年寄りへのネグレクトです。医療機関の虐待は制度的には位置付けられてないことが課題になっています。
5. 当学会の立ち上げから現在の活動
われわれの学会の紹介として虐待防止法が成立前に、学会を立ち上げています。学会員は、高齢者介護の専門職、看護師、医者、法律家、弁護士などです。われわれは単に研究活動だけではなく、虐待防止のための制度的なツールを集め、虐待防止法という制度化に向けたアクションを起こしました。制度化したときに、国としても、お年寄りを救出する権限とか、通報制度など早く立ち上げたかったのです。国会もその趣旨を理解して、与党と野党は対立することなく、スムーズに法律を成立させました。
われわれは年に1回、学術大会を全国各地で開催しています。今年は横浜市で開催しました。来年は千葉県松戸市で開催する予定です。
虐待防止法は、法律ができてから10年改正されていないので、法律の改正への活動をしています。
6. 弁護士会の高齢者問題に関する活動
弁護士会は、全国各都道府県に高齢者問題を扱う部局を設置しています。大阪弁護士会、東京弁護士会でも開催しています。各地域での虐待問題に対して、予防的な活動や支援の問題といったものを、お年寄りに近い立場で行っています。
弁護士会では、社会福祉士会、ソーシャルワーカーの団体と一緒に多くの都道府県で、行政の法律に基づいて、高齢者の保護活動の事案について専門職チームのアドバイザーを行なっています。弁護士会は、弁護士が高齢者の後見人、Guardianになるので、法律についての知識や高齢者に特有の問題などについて、弁護士に理解をしてもらう研修会を開いています。

Ⅱ. Cooksey氏からの質問

1.会にはファイナンシャルプランナーとか、そういう業界の金融プロフェッショナルの会員や、資産的搾取に対して詳しく関わられる方がいますか。
財産管理に関しては、個別に成年後見制度があります。お年寄りも、その資産をそのお年寄りのために活用しながら、無駄な流出をしないように見守ります。そういう役割の人を付ける制度ができて、われわれも裁判所から、このお年寄りに後見人を付けてくださいという推薦依頼があり、弁護士会が推薦するというかたちでたくさんのお年寄りのフォローをしています。

2.どういう場合に成年後見人が付くのでしょうか。例えば、もうお一人になってしまって、親族が誰もいない方でしょうか。または虐待を受けて、家から出なくてはいけない人でしょうか。または両方でしょうか。
自分のお金は自分で管理するというのが基本です。もし、自分の財産が取られそうになったら、自分で守ります。自分で守ることが十分できない場合は、その人本人が第三者を選任し、依頼して管理してもらうことになります。自分で自分の財産の管理を第三者に委ねるという判断が難しい人、例えば認知症のお年寄りや、精神障害のある方は後見制度を使って後見人を選任します。後見人選任の要件としては、その人が財産管理ができない、判断能力の低下を医者の診断書で証明する必要があります。
3. 成年後見人が行うのは、財産管理だけなのでしょうか。健康管理や生活管理までは行わないのでしょうか。
直接介護ではなく、その人の日常生活を支援します。コーディネートをおこなうのです。
4. 報告書に中央政府と地方自治体は、民間と公共の機関がうまく連携するように促し支援するとありますが、うまくいっているのでしょうか。
行政の中で一番小さい行政区分が市町村、その上が都道府県です。県には十幾つの市町村があり、基本は市町村が虐待通報に対応します。市町村をまたがる案件は県が担当します。虐待問題は、第一次的に市町村、そして二次的に都道府県が対応することになっています。
対応は市町村が中心で、県の役割は研修開催などで個別案件には口出しをしないので、連携は十分できてない可能性はあります。
民間の虐待対応としては、家庭内虐待から救出され緊急の避難場所として、民間である社会福祉法人が経営する老人ホームがあります。老人ホームはベッドを空けておく必要があります。入所場所は虐待した家族には教えません。
その他民間という意味では、お年寄りの安否確認など地域のボランティアあるいは、NPOなどでお年寄りを見守る活動が各地域で自然発生的にできています。
5. 報告書によると、家庭内での虐待の数が増えているそうですが実際はどうでしょうか。
家庭内での虐待を防ぐための成功事例を教えていただけますか。
家庭内の虐待は法律が制定されてから毎年、政府が統計を発表しています。各都道府県の通報の数を国が集約して毎年発表しています。実際、家庭内虐待、養護者虐待の数は確かに増えてきていますが、高齢者虐待防止法制定以前は虐待を国民が意識をしていなかったが、統計を取るに伴って通報数が増えていることも考えられます。
虐待防止の成功例と介護負担によって起きるような虐待に関しては、サービスの導入を提供したり、介護の負担の精神的なフォローをしたりして介護負担による虐待に関しては減ってきていると思っています。

6. 介護保険の内容と機能について
介護保険制度は、元々は国と地方の行政の費用負担で、高齢者介護のサービスを提供していました。ところが、日本は高齢者の数が増えてきて、行政も負担しきれず、お年寄り自身も保険料、利用料を払い、国民にも何分の一かは支えてもらって介護保険制度が発足しました。
7. 自分らしく長生きするための秘訣はなんでしょう。

お年寄り自身が「残りの人生」と考えずに、もう一つの人生をこれから生きると発想を切り替えて、もう一つの人生に夢を持つことでしょう。もう一つ人生と思えば、まだ何かできる、何か役割があります。社会もそういう声掛けが必要だと思います。昔聞いた話では、施設にいる認知症のように思えるお年寄りが、かつて教えていた趣味をこの老人ホームにいる利用者にも教えてやりましょうと本気モードになり、一つのサンプルをつくって、人前でちゃんとプレゼンテーションができたということです。その人がしまい込んでいた自分の一番輝いていた時代、その輝きをもう一度取り戻すことができたのです。多分、誰しもが持っていると思うのです。
もう一つは、認知症で無気力になっているお年寄りのお墓参りの夢を叶えた、という例があります。それは、看護の職員を付けた中国大陸への墓参りでした。帰ってきてから、今度はピアノの練習をしたいとおっしゃった。諦めていたお墓参りを諦めてしまわずに、これをしたいんだと言えば、それを受け止めて企画し実現してくれる人がいること。そういうフォローをする人がいれば、その人の、もう一つの人生が始まるのではないかと考えます。

Ⅲ. 今回の会談での成果

(Cooksey氏) 自分らしく長生きできる秘訣を聞いた意味は2つ理由があります。まず一つ目には、自分もぜひ幸せに長生きしたいと思うからです。今回、日本の文化や、老人がとても活動的に行動している長寿国だと感銘を受けました。ぜひ見習いたいと思います。
もう一つは、会社のWellsFargoでは社員のボランティア活動の担当として、活動の枠組みを作っています。今、一つの具体例をくださりインスピレーションを受けました。社員のボランティア活動に老人の方々と話すという機会をぜひ設けたいと思います。話をすることによって、老人の方に先ほどもスイッチが入ったとおっしゃっていたので、私は電球がつく、火がつくという活動名にしようかなと思っています。Light bulb activityにしようかなと思うぐらいなんですが、話すことを通して、彼女、彼らの火がつく瞬間をもたらして、まだまだ貢献できるんだということを気付かせてあげたいなと思います。社会貢献がすごく老人にとって大事だなということを感じました。

(池田理事長)職員は、目の前にいるお年寄りは能力的に衰えてきている人、弱々しい人、vulnerableな人と思いがちです。しかし、お年寄りの人生は輝いていた時代を経て今があります。お年寄りは、自分の自慢できるものを皆、持っているんですよね。でも、その昔の自慢は、今、話をしても相手にしてくれないのでしまい込んでいる。それを世話してくれる担当者が聞いてくれたら、絶対に応えるんですよ。実はね、私は昔こんなことをしていたんですよとかね。お年寄りの自慢話を聞けば、職員も、これだけのことをやってきたお年寄りなのだという、自分の担当している利用者に対する見方も変わります。見方が変われば、そのお年寄りを尊重し虐待は起こらないと思います。
(Cooksey氏) 【日本で見た印象に残った活動】
敬老の日に高齢者を対象とした催し物を見学しました。それはいくつかの部屋に分かれており、その1つは、身体能力を測る部屋で健康についても看護師さんに相談できる部屋でした。2つ目の部屋は、大学生が物語を老人の方に読み聞かせするということでした。もう一つの部屋はスターバックスで抹茶ラテの試飲、あともう1部屋は、ボーイスカウトの子どもたちが、おじいちゃま、おばあちゃまの肩を揉んでいました。
肩揉みは高齢者とも触れ合う機会になり、いろいろな会話ができる素晴らしい活動だと思います。これはもう帰ったら絶対にやろうと思っています。
(池田理事長)日本での取り組みとしては、お年寄りが子供このころの遊んだHandmade toys手作りのおもちゃが、身近なものを使っておもちゃをつくると楽しさを子どもに見せると、子どもはすごいねと、お年寄りの見る目が変わってきます。日本でもそういう昔のおもちゃをお年寄りのグループで子どもらにつくって遊んでもらうという取り組みがあります。

以上約1時間半ですが、大変有意義な会談でありました。
(文責 小長谷百絵)

Cooksey氏は、2016年アイゼンハワーフェロー。アイゼンハワー財団は、アメリカのフィラデルフィアにある財団で、優れたリーダーを育成する個人対象研修プログラム「アイゼンハラー・フェローシップ」を実施している。年間何十名かリーダー育成を目的として各国に送っており、日本からもフェローを輩出している。日本での研修は、米国のアジア理解を深め、アジア各国との関係を促進のため活動しているモーリーン・アンド・マイク・マンスフィールド財団が委託され、実施・運営している。
アイゼンハワー財団HP:https://efworld.org/
マンスフィールド財団HP:http://mansfieldfdn.org/japanese-3/

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