高齢者虐待防止法改正についてご意見を募集しています

法制度推進委員会(旧法制度改革特別部会)では、高齢者虐待防止法の見直しに向けて、2010年2月10日に「高齢者虐待防止法改正案要綱(案)」を試案としてとりまとめ、同年7月にこの解説を作成し、会員の皆様からのご意見を募っていました。

2016年7月に開催される第13回横浜大会では、シンポジウム「法改正に向けて」が予定をされていることから、再度、上記の改正案要綱(案)および解説をホームページに掲載し、学会内外からご意見を募り、現在の状況を踏まえた内容に改訂すべく検討を行ったうえで、国や国会議員に対して法改正の働きかけを強めたいと思っております。

ご参照いただき、是非ご意見をお寄せいただきますようお願いいたします。また、法改正についての各関係団体等の取り組みについてもご情報をお寄せいただきたく、お願い申し上げます。


解説 高齢者虐待防止法改正案要綱(案)

2010年7月3日

 

高齢者虐待防止法改正案要綱(案)

日本高齢者虐待防止学会
法制度改革特別部会
部会長 池 田 直 樹

当学会法制度改革特別部会は、高齢者虐待防止法の見直しに向けて、本年2月10日下記改正案要綱を条文化して取りまとめました。是非学会内での改正議論の参考にして下さい。

【提案1】虐待類型の中に「セルフネグレクト(自己虐待)」を新たに追加する。

セルフネグレクトは、防止法の第一章が予定する虐待類型とは異質ではあるが、高齢者の尊厳維持・回復に社会が強い関心を持っているという意味において差異はありません。また、制度として明記することで、市町村がセルフネグレクトに対してきっちり取り組むべきとの位置づけをすることができます。

改正方法としては、定義に加えるのみとし、第一章の各条項の中でセルフネグレクトが想定しない条項は適用を考えていません。
【提案2】第一章の「虐待者」の類型として「介護保険の認可を受けていない入所型事業所も虐待類型に含める。

無認可の介護サービス事業所における虐待事例が発生し、被虐待高齢者を漏れなく保護し、その尊厳の維持回復をすべきです。

改正案は以下の通りである。

  • 1 第2条2項末尾に以下の規定を追加する。
    介護保険の認可を受けていない介護サービス事業所を含む。
  • 2 第2条3項を次のように改める。
    この法律において「高齢者虐待」とは、養護者による高齢者虐待、養介護施設従事者等による高齢者虐待のほか、高齢者自身による自己虐待を指す。
  • 3 第2条5項の次に以下の条項を追加する。
    6項 自己虐待とは、自己が要介護状態にあり、介護保険の利用若しくは生活保護(介護扶助)の利用が可能であることの説明を受けながら、なお介護を受けることを拒む行為を指す。

【提案3】市町村の役割として「必要に応じて当該高齢者に対する介護環境改善のための支援計画を策定するものとする。」との規定を追加する。

現行法では、第一章における市町村の役割について、第6条は単に「相談、指導及び助言を行う」としていますが、市町村は高齢者虐待防止の実施責任者として個々の当該高齢者の状況を把握し、具体的な支援計画を策定し実践する責任を明記すべきです。

改正案は以下の通りである。

  • 第6条「相談、指導及び助言を行う」との規程に続けて、以下の条文を追加する。
    「必要に応じて当該高齢者に対する介護環境改善のための支援計画を策定するものとする。」

【提案4】立ち入り権限について、まず知事に出頭命令の権限を認め、出頭命令に応じない場合には裁判所による立入命令を発することができるよう改める。

現行法は、虐待調査のための立入(第11条)を規定していますが、児童虐待防止法の規定を参考に、まず知事に出頭命令の権限を認め、そして出頭命令に応じない場合には裁判所による立入命令を発することができるよう改める必要があります。児童虐待防止法においては、裁判所の立ち入りは切り札であって、その前段階の知事の出頭命令で解決につながるケースも見られるとのことです。

【提案5】都道府県の権限として、市町村相互間の調整、専門職員による市町村への還元

現行法では、「都道府県の援助」(第19条)として、「市町村に対する連絡調整、情報提供その他必要な援助を行う」とされています。しかし、複数の市町村が関与せざるをえない事案があります。例えば、小さな市町村で市町村内の施設に措置入所しても入所先が直ぐに突き止められてしまいます。

そのため県内の他の施設に入所できるように連携する必要があります。それらの解決のため、さらには市町村で積み上げられた事例を分析して、より適切な支援体制を構築するためのシンクタンク(専門機関)としての機能を持つべきです。

改正案としては、19条第1項として以下の文言を追加する。

  • 第1項 都道府県は、この章の規定により市町村が行う措置の実施に関し、迅速対応のため、市町村相互間の権限を調整し代行するものとする。
  • 第2項 都道府県に専門職員を配置し、市町村から実施状況につき個別の報告を受け、分析の上、市町村に還元するものとする。
  • 第3項 現在の第2項は第3項とする。

【提案6】事業所内での虐待に対する従業員の内部通報は「過失による場合」でも正当な通報として保護すべきである。

現行法は事業所内での虐待に付き従業員の内部通報は「虚偽の場合、過失による場合」は不利益取り扱い禁止の対象から除外しています(第21条6項)。しかし、事業活動に伴う虐待において第一発見者は事業所内部の従業員であり、早期の通報を促すためにも「過失による場合」は正当な通報として保護すべきです。

改正案としては、21条6項括弧書きを以下の通り改める。

  • 虚偽であるものを除く。次項において同じ。

【提案7】医療機関における虐待については、医療法を中心とした制度の枠内で処理されるべき

医療機関における虐待について、療養型病床群については第2条5項1号において規定されていますが、その余の医療機関については規定がありません。しかし、漏れなく高齢者の尊厳の維持回復を図る趣旨から、これらを除外すべきではありません。

ただ、医療機関については厚生労働省が主管しており、医療法を中心とした制度の枠内で処理されるとの原則を維持し、同省の指導に委ねるのが適当と思われます。
改正案としては、第4章として「医療機関における虐待」を規定すべきである。
25条の次に以下の規定を置く。
第4章 医療機関による虐待

  • 26条 医療機関において第2条に定める行為がなされた場合は、医療制度の枠内で緊急かつ適切に対応されなければならない。
  • 2 市町村、都道府県が通報を受けた場合には、その事実を直ちに都道府県知事に連絡しなければならない。
  • 3 通報を受けた知事は、直ちに当該医療機関に対して医療法に基づき、要介護入院患者に対する健康状態を把握し適切な措置を講じなければならない。
  • 4 前記通報について、病院の内部通報の場合は、21条6項を準用する。

以上

高齢者虐待防止法改正案要綱(案)

2010年2月10日

高齢者虐待防止法改正案要綱(案)

日本高齢者虐待防止学会
法制度改革特別部会
部会長 池 田 直 樹

当学会法制度改革特別部会は、高齢者虐待防止法の見直しに際して、下記改正案要綱を条文化して取りまとめましたので、是非改正作業の参考にして頂きたい。

第2 虐待類型の中に「セルフネグレクト(自己虐待)」を新たに追加する。定義に加えるのみとし、第一章の各条項の中でセルフネグレクトが想定しない条項は適用を考えていない。セルフネグレクトが第一章が予定する虐待類型とは異質ではあるが、高齢者の尊厳維持回復に社会が強い関心を持っているという意味において差異はない。また、制度として明記することで、市町村がセルフネグレクトに対してきっちり取り組むべきとの位置づけをすることができる。

第3 さらに、第一章の「虐待者」の類型として、*介護保険の認可を受けていない入所型事業所も虐待類型に含める。無認可の介護サービス事業所における虐待事例が発生し、被虐待高齢者を漏れなく保護し、その尊厳の維持回復をすべきである。

改正案は以下の通りである。

  • 5 第2条2項末尾に以下の規定を追加する。
    介護保険の認可を受けていない介護サービス事業所を含む。
  • 6 第2条3項を次のように改める。
    この法律において「高齢者虐待」とは、養護者による高齢者虐待、養介護施設従事者等による高齢者虐待のほか、高齢者自身による自己虐待を指す。
  • 7 第2条5項の次に以下の条項を追加する。
    6項 自己虐待とは、自己が要介護状態にあり、介護保険の利用若しくは生活保護(介護扶助)の利用が可能であることの説明を受けながら、なお介護を受けることを拒む行為を指す。

第4 現行法では、第一章における市町村の役割について、第6条は単に「相談、指導及び助言を行う」としているが、さらに「必要に応じて当該高齢者に対する介護環境改善のための支援計画を策定するものとする。」との規定を追加する。市町村は高齢者虐待防止の実施責任者として個々の当該高齢者の状況を把握し、具体的な支援計画を策定し実践する責任を明記すべきである。

第5 立ち入り権限について、現行法は調査のための立入(第11条)を規定するが、児童虐待防止法の規定を参考に、まず知事に出頭命令の権限を、そして出頭命令に応じない場合には裁判所による立入命令を発することができるよう改める。

第6 現行法では、「都道府県の援助」(第19条)として、「市町村に対する連絡調整、情報提供その他必要な援助を行う」とされている。しかし、複数の市町村が関与せざるをえない事案〔例えば、小さな市町村で市町村内の施設に措置入所しても入所先が直ぐに突き止められてしまう。そのため県内の他の施設に入所できるように連携する必要がある〕の解決のため、さらには市町村で積み上げられた事例を分析して、より適切な支援体制を構築するための*シンクタンク(専門機関)としての機能を持つべきである。

改正案としては、19条第1項として以下の文言を追加する。

  • 第1項 都道府県は、この章の規定により市町村が行う措置の実施に関し、迅速対応のため、市町村相互間の権限を調整し代行するものとする。
  • 第2項 都道府県に専門職員を配置し、市町村から実施状況につき個別の報告を受け、分析の上、市町村に還元するものとする。
  • 第3項 現在の第2項は第3項とする。

第7 現行法は事業所内での虐待に付き従業員の内部通報は「虚偽の場合、過失による場合」は不利益取り扱い禁止の対象から除外している(第21条6項)。しかし、事業活動に伴う虐待において第一発見者は事業所内部の従業員であり、早期の通報を促すためにも「過失による場合」は正当な通報として保護すべきである。

改正案としては、21条6項括弧書きを以下の通り改める。

虚偽であるものを除く。次項において同じ。

第8 医療機関における虐待について、療養型病床群については第2条5項1号において規定されているが、その余の医療機関については規定がない。しかし、漏れなく高齢者の尊厳の維持回復を図る趣旨から、これらを除外すべきではない。ただ、医療機関については医療法を中心として制度の枠内で処理されるべきとの原則は維持すべきである。

改正案としては、第4章として「医療機関における虐待」を規定すべきである。

25条の次に以下の規定を置く。
第4章 医療機関による虐待

  • 26条 医療機関において第2条に定める行為がなされた場合は、医療制度の枠内で緊急かつ適切に対応されなければならない。
  • 2 市町村、都道府県が通報を受けた場合には、その事実を直ちに都道府県知事に連絡しなければならない。
  • 3 通報を受けた知事は、直ちに当該医療機関に対して医療法に基づき、入院患者に対する健康状態を把握し適切な措置を講じなければならない。
  • 8 前記通報について、病院の内部通報の場合は、21条6項を準用する。

以上

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高齢者虐待防止法改正案要綱(案)、解説全文

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